1998年発売


METAL GEAR SOLID

MGS100


随分古いゲームのレビューとなります。
執筆現在TPP発売直前ということで、これからTPP発売までの間過去のシリーズのレビューを載せていきます。


ネタバレが含まれますのでこれからプレイしようと考えている方はお気をつけて。



MGS概要



小島秀夫監督の元開発されKONAMIより発売された「メタルギア」「メタルギア2ソリッドスネーク」の続編となる本作。

MSXからPlayStationにプラットフォームを変えて開発され、グラフィックは2Dから3Dポリゴンへ進化。

MGS101

前作から継続してステルス(潜入)ゲームという先進的なシステムが取り入れられ、その後のゲームに大きな影響を与えたと言われています。

とりわけ海外での評価が高く、全世界で600万本以上売れているとか。
(参考:VGChartz)





シンプルながらも奥深いストーリー



ある島にて武装蜂起した特殊部隊を倒すという、一言で言い表すととてもシンプルなストーリーながら、政治、陰謀、主人公や敵方の身の上などの様々な要素が複雑に絡み合い構成されるストーリーは秀逸。

基礎となる設定も現実味を帯びるような説明がなされております。

しかしここは評価の分かれるところでしょう。私は専門知識がないので「不凍糖ペプチド」がどうなんて言われると「ふむふむ」と聞いてしまって説得力を感じるのですが、出てくる科学技術の中には変なものもあるそうです。




ストーリーは一見複雑なのですが構成がとてもスッキリとしてわかりやすく、メタルギアシリーズの中でも屈指のエンターテインメント然とした作品になっています。


主人公スネークに与えられた大ミッションその他の話のバランスが絶妙な上にどれも良い。

小難しい話は極力廃し大筋としてはある一つの陰謀に終始している辺りかなりわかりやすい。



つまり、「ドナルド・アンダーソンとケネス・ベイカーを救出しテロリストの言質を取れ」という当初のミッション内容はダミーで、実は「FOXDIEのベクター(運び手)となり事態の収拾を急ぐ」というのがスネークに(知らせず)与えられた任務だったという黒幕の謀略を中心に物語は展開され、それを修飾する形で他の問題が配置されている。



まず言っておかなければならないのは、この中心となる物語が大変良く出来ています。これだけでも評価に値する。

(突然の心臓発作)、ヒント(「ペンタゴンの役人共めぇ・・・」)、透けて見える陰謀(ナオミの矛盾した言動(実はこれ自体は大筋に関係ないのだが))、そして真実

進むごとに増える謎とスネークの疑念、そして散りばめられた伏線、驚愕の真実、どれも素晴らしい演出。



そして数多ある小さな物語がこの大筋と絡みつつ展開されるわけですが、この一つ一つもよくできている。

名シーンとして数えられるのはむしろこっちの方が多いですし、私もこれらの話が好きです。


注目すべきは、本筋から派生したこれらの物語の一つ一つがちゃんと成立しているところでしょう。



ソリッドとリキッド、オタコンとスナイパーウルフの情愛、ナオミの過去、オセロットの暗躍...etc

これらの全てが大筋と密接に関わりつつも別個のラインで展開し、起こりから帰結までちゃんと一つの物語として機能している。しかもどれもプレイヤーによってはベストシーンとなり得るほどの展開を見せています。

この構成の巧みさ、絶妙さは他に類を見ないほどです。


単にストーリーとしてだけでなく、ゲーム性にもこの小さな物語の数々は一役買っています。

例えば道中に配置されるボス戦。

ボス戦自体は大筋と関係がありません。(なわけではないですが、あくまで通過点)

しかしボスとの出会いや因縁が描かれることで、単なる邪魔者ではなくそれ自体が一つの物語として機能するようになっています。



あと全ての部分に言えるのが台詞の秀逸さです。

どこを取ってもかっこいい言い回しでニヤリとさせられます。

無線での会話は膨大な量がありますが、会話劇がイチイチ面白いので飽きさせません。


そして私が特に好きなのは戦闘に入る前の一幕。

「6発だ!6発以上生き延びた奴はいない!」
「俺に生きる実感をくれ!」
「スネーク!まだだ!まだ終わっていない!」


おっしゃ!来い!と高揚感を煽られます。




一点だけ苦言を。

物語の奥深さとトレードオフではありますが、頻繁に無線連絡やムービーが入ります。

少し進めたらムービー、少し進めたらCALL、と頻繁にゲームを止められることになる点はマイナスと言っていいでしょう。

ただし先にも言った通り、ストーリー部分の進行をムービーと無線に頼っている本作では、物語が長くなるほど、厚みが増せば増すほどこれらが増えてしまうのは仕方の無いことです。





スネークの自問



ストーリーの話ですがここからは私見が多分に入るので別項目にしました。



おそらく意識的に廃したであろうソリッドスネークの自問。

ソリッドスネークは結果的に任務を言われた通りにやり通しますが、それは国に忠を尽くした結果なのか。


います。

ソリッドスネークは「隠し事は無しだ」なんて言ったり、聞いていないことが起こると怒ったりしていますが、これは軍に所属する人間としては(退役しているものの)ありえません。

言われたことを言われた通りにするのが軍人です。

そんな感じなので薄れてしまっていますが、結局は言われた通りに任務を遂行しています。


そしてリキッドのやっていることは決してそのものではありません。

民間人を大量虐殺してやろうとかそういったものではなく、アメリカの権威を失墜させて俺達(兵士)に住み良い社会を作りましょう!てなもの。

対してアメリカ(国防省長官ジム・ハウスマンの独断とのことだが)がやろうとしたことはシャドー・モセス島への核攻撃で、ソリッドスネークや敵、研究員もろとも破壊しようという、言わば証拠隠滅という名の大量虐殺。


ソリッドスネークからしたらどちらに味方したかったでしょうか。
(あの状況ではリキッドと戦わざるを得なかったことは別として)




兵士の楽園を作る為核実験場に核を撃とうとしたリキッド

最初からソリッドを捨て駒にするつもりだったのに加え、多くの民間人もろとも殺してでも自国(ソリッドには祖国)を守ろうとしたアメリカ




任務を遂行することを優先しない限り、少なくとも迷いそうなもんではないですか。

事実この事件の後ソリッドはアメリカに追われる立場となってしまっていますので、アメリカに忠を尽くしたわけでは(おそらく)ないでしょう。



にも関わらず、迷っている素振りすら、自問すらないんですよ。


つまり、「貴方はどう思う?」という問いかけなのですよこれは。


自問すらないことでソリッドスネークの思考については完全にプレイヤーの自由です。

「確かにリキッドの言い分もわかるが・・・」という自問があれば、「ああ、スネークも迷っているんだな」なんて思考がプレイヤーの中に定まってしまいます。


そこを廃することで「後はご想像にお任せします」という作りになっているというわけ。

「リキッドの思いに賛同しつつもメリルを優先したのだろう」なのか、
「テロリストに味方するわけにはいかなかったのだろう」なのか、
「それでも祖国に忠を尽くすことこそスネークの"自分で決めた"ことなのだろう」なのか、


それぞれのプレイヤーがそれぞれのスネーク像を自分で作り上げ、この作品のキモとなる問題をスネークと一緒になって考えることができる。


何かの思想を押し付けることなく、「自分で考えろ」と突き放してくれる懐の深さがありますね。

このスタンスはこの部分だけではなく随所に見えて好きです。

プレイヤーのイデオロギーに関わりそうな部分では特にこの傾向が強いんですよね。核武装の是非とか。

私はこのスタンス好きです。






変化に富んだゲームプレイ



敵との戦闘を避けながら進むという大原則はありつつも、ミッション目標さえクリアすれば進み方は自由です。

自分のプレイスタイルを好きに選んで進むことができるのでプレイしていて楽しい上に没入感もアップします。


それに、単に敵兵士から見つからないようにステージを進めるだけではなく、変化に富んだ仕掛けも盛り沢山。

通り一辺倒ではなく、変わった操作を求められたり違う工夫が必要になるので飽きさせません。


一番基本となるのは一般兵であるゲノム兵との戦闘です。

しかしこのゲノム兵が相当お粗末で、殴られても次の瞬間にはそのことを忘れてしまいます。

ゲノム兵は実戦経験こそ乏しいものの、ジーンセラピーを受けてビッグボスのソルジャー遺伝子を持ち優秀な兵士の素質を持った者達であるはず。

もしシステム上このくらいのAIが限界だったのなら、設定で弱い兵士であるということにしとけばよかったのになんて思います。





戦闘の中でもボス戦が特に良いです。

意外にもボス戦では変わった操作が求められることがありません。

普段もできる行動ばかり。

しかしボス戦では違った工夫が必要になります。

いつも使うことができるもののあまり使う機会がない装備を使った方が楽に倒せるような作りになっていたり、ゲノム兵に対してはそんなに有効とは言えない格闘を主に使うことになったり。

特別な戦闘だからと普段とは全く違った装いにならないことが、逆に工夫を必要とさせてくれます。



あと忘れてはならないのは他に類を見ないほどのメタフィクション的な手法の数々。

「パッケージの裏を見ろ」
「ヒデオ」
「小島作品が好きなようだな」


などなど、これらの稀有な表現はプレイヤーの心に深く残り、今もなお語り継がれます。

何故か嫌ではないのは作品全体に流れる雰囲気からでしょうか。シリアスな中にもユーモアがありますからね。




ストーリーがいかに良くとも、あくまでゲームなのですからゲーム自体が面白くなければいけないと思います。

その点本作はゲーム部分も抜群に面白いので問題なし。






総合



秀逸なストーリーとゲーム性を併せ持ち、プレイした者に忘れることのできないようなゲーム体験を提供した本作。

しかし要素としてはどちらも良いものの、結果としてストーリーがゲームプレイを圧迫しているという印象は拭えません。

ストーリーの量と質が比例するような内容である為、これはトレードオフであると言えます。容量の問題もあるでしょう。


しかし感じてしまったものは仕方ない。

どちらも取れたらなんていうのは理想論かもしれませんが、気になったのは事実です。



ここ以外は全体的に良いです。

シリーズの中ではシンプルなストーリーなのも違った意味で評価が高い。

個人的には思い出補正もありますね。